story
「遊園地にも行きたいなぁ」子供のころ、思っていました。休日に両親に連れて行ってもらう場所は美術館やギャラリーがほとんどで、アルバムをめくってみると、そんな写真が並んでいます。家には多くの画家が訪れ、壁に掛けられていた数々の絵の記憶も蘇ってきます。
「坐辺師友」―自分の周りにあるものが師であり、友であるという意味ですが、私の側にはいつもアートがあり、いつしかその遊び場は、父が設立した「何必館」になりました。“何必”とは父の考えるアートの訳で、「何ぞ、必ずしも」と定説を疑う精神を大切にしたいという願いがこめられています。
20代にパリのヨーロッパ写真館(MEP)の立ち上げに参加した経験は、その後の私を方向づけました。私の世界はぐんと広がり、仕事を通して多くの出会いがありました。その一つに、フランスの写真家サラ・ムーンとの出会いがあります。20年近く前、「青髭」を原作に、彼女と「赤い糸」という写真集を作りました。切れることのない運命の糸という意味を持つこの言葉が、それから、私たちのキーワードになりました。
2016年の夏、パリを訪れ、私の愛用しているバッグのデザイナーとサラが、長年、友情を育んできたことを知りました。二人の絆の物語に触発され、私はブランドを立ち上げることを決めました。それがthe editの始まりです。
人生は思いがけない偶然に溢れています。そんな幸せなつながりを生かして、ストーリーのある商品を編んでみたいと思っています。赤い糸に感謝をこめて。
ディレクター 梶川由紀
京都生まれ。京都現代美術財団の創設者を父に持ち、幼少の頃よりアートに携わる。大学卒業後、パリ、マレ地区にあるヨーロッパ写真館(Maison Europeenne de la Photographie)の美術館立ち上げに、日本人キュレーターとして参加。
帰国後、何必館・京都現代美術館キュレーターとして、同館の写真部門を立ち上げる。国内外とのアーティストとの交流を深め、展覧会企画、写真集編集、アートディレクションなどを行う。京都を拠点に、執筆活動や映像制作も行っている。
Sarah Moonと